白藍塾樋口裕一の小論文・作文通信指導

第7話:白藍塾小学生作文教室の誕生から現在まで


母親たちのささやき


 白藍塾は91年に大学入試小論文対策の専門塾としてスタートしました。この頃は受験生がいっぱいいました。また、早稲田、慶応、国立難関大などで小論文試験が必須でしたので、小論文指導のみという間口の狭い専門指導塾でも、なんとかやっていけました。


 私が白藍塾に勤めるようになったのは94年です。今に比べればまだまだ受験生がたくさんいた時代でしたが、18歳人口の減少が始まりだした頃でもありました。塾長は、塾に入りたての私に、「これからは受験生が減る一方なので、次なるビジネスを今から考えておく必要がある」と、よくお話しをされていました。


 私は教育業界のことは何もわからない素人でしたが、とりあえず塾長の当時の人脈の中では、元気がよく、演劇経験があるのでハッタリもきくだろう、ということで、営業担当として白藍塾の仲間に加えてもらいました。最初は塾回りの営業マンからスタートしました。だいぶ門前払いを食らいましたが、いくつかの塾では素人丸出しの営業マンである私を温かく迎えてくれました。私は営業先の塾の先生方とのコミュニケーションから、教育業界の最新事情を徐々に学んでいきました。彼らから得た情報には白藍塾ビジネスを広げる様々なヒントがありました。今から思えば、その最大の拾い物が大手塾の管理職の方から伺った次の話だったかもしれません。これが小学生作文教室を作るきっかけとなったのですから。


「和田さん、知っていますか。今、小学校では全然作文を書かせないんですよ。だから文章を書けない子どもが増えています。塾で保護者会を開くと子どもの作文力低下を心配するお母さん方の声をたくさんいただくんですよ」


 


109の誓い


 早速この話を塾長に伝え、大学入試小論文に続く事業として、小学生作文指導塾の設立を提案しました。それから数日後、渋谷109の最上階にあった(今はなき?)タイレストランで、夜9時半頃に2人でディナーミーティングを開きました。塾長は当時、渋谷にある大学の夜間部でフランス語の授業を受け持っていたので、このような時間に渋谷で夕食をとりながらのミーティングとなったのです。とりあえず注釈しておきます。


二人で塾長好物のマナガツオの唐揚げなどをつつきながら、次の誓いを立てました。


「白藍塾は小学生作文教育事業に進出する。まずは小学生作文の参考書、保護者向けの作文教育の必要性を説く啓蒙書、あるいは子ども向け参考書と親向け啓蒙書の合体本のいずれかを世に出す。それを機に、通信添削による小学生作文教室を開く」。


その日から塾長による小学生作文指導ノウハウの研究が始まりました。それからしばらくして「ホップ・ステップ・ジャンプ・着地」の作文のアイデアを電話で教えてもらいました。塾長は知り合いの塾での試し指導などにも取り組みながら、徐々に指導ノウハウを蓄積していきました。そのうちに、参考書および啓蒙書のテスト原稿が上がってきました。着々と準備は整ってきました。私は、塾長の作ったテスト原稿を出版社に売り込む仕事を受け持ちました。しかし、これがなかなか採用されません。塾長は当時既に大学入試小論文の参考書の書き手としてヒットメーカーでしたが、その実績をもってしても、企画は採用されませんでした。各出版社の方が異口同音におっしゃったのは「内容がよいのはわかる。しかし小学生向けの作文の参考書など売れない」というものでした。大手から中堅までずいぶんまわりましたが、とにかく「売れないから出せない」というのが当時の出版関係者の共通した反応でした。


 


新聞連載から講座誕生まで


97年、”109の誓い”から2年ほど経過していました。小学生作文事業については暗礁に乗り上げている感がありましたが、その突破口となるアイデアのヒントを、今度も塾周りの営業から得ることになります。ある塾を訪問した際、案内されたテーブルの脇に無造作に置かれていた新聞に目が留まりました。産経新聞の夕刊(現在夕刊はありません)で、「日刊じゅくーる」というタイトルの連載記事です。最新の教育情報を紹介するコーナーで、カリスマ先生や特色ある塾の紹介など、教育の新局面を古臭い概念にとらわれずに伝えようとしている姿勢を感じました。


「ここに『ホップ・ステップ・ジャンプ・着地』の作文を連載コラムで紹介させてもらえないだろうか。これからの時代に求められる新しい作文教育というテーマで!」


 このように考えて、すぐに産経新聞の日刊じゅくーる編集部に連絡をして、企画書と塾長から預かっているテスト原稿を送りました。それから一週間ほどして産経新聞より次のご連絡をいただきました。


「おもしろい。『じゅくーる』としても、ちょうど新しいネタがほしいと検討していたところ。ぜひやりましょう!」


話はとんとん拍子に決まり、塾長による産経新聞紙上での「『ホップ・ステップ・ジャンプ・着地』の作文」全40回のコラム連載が始まりました。tokoton-07a.jpg


 97年の暮れ、連載も半ばにさしかかった頃、新聞連載の実績が評価されたこともあり、学習研究社で、待望の小学生向け作文の参考書が世に出るようになりました。それをきっかけに、「白藍塾小学生作文教室」の立ち上げ準備に入りました。そして、98年の3月より募集を開始して、98年の5月より受講がスタートしました。スタート時は、小学校高学年を対象とする1コース制、会員数は17名でした。


 


低・中・高学年の3コース制にリニューアル


 小学生作文教室はスタートしたものの、会員数の割にはコストのかかる厳しい運営が続きました。いきいきとした子どもの作文や熱心な保護者の声のおかげで有意義な仕事をしているという充実感はありましたが・・・。なんとか突破口を見出し、講座を盛り上げていきたいと思っていました。


01年、学研から出版された作文参考書『作文力をつける』を低・中・高学年用の3冊シリーズにしたいとの話が持ち込まれました。『作文力をつける』は高学年を対象にした内容でしたが、学研の調査によると、結構低・中学年の親が買っているので、潜在ニーズがあるだろうとのことでした。


 そこで白藍塾でも、ここで一気に1~2年用(ファーストコース)、3~4年用(セカンドコース)、5~6年用(サードコース)の3コースに講座を拡大することにしました。


正直私は講座拡大には自信がありませんでしたが、いざ募集をしてみると、低・中学年の申込者が殺到しました。そして会員数は、100名、200名単位で増えていきました。


低・中学年のコースは、本好きの子を育てるねらいも含ませて、「課題の物語を読んで作文に取り掛かる」という講座スタイルにしました。ところが多くの保護者の方は、この講座スタイルから、「書く力と読む力をあわせて学習できる。中学入試準備前の学習に最適」と判断して、お子さんを白藍塾に入会させてくれたようです。コース開設時には、作り手である私たちはこの点には気づいていませんでした。現代教育ママの洞察力には頭が下がります。


なお、物語及び挿絵つきの課題を用意できたのは、塾長の教え子であり、漫画が描ける、柚木利志(現在専任講師)がいたからこそ実現できた企画です。彼が一気に物語、問題、挿絵を仕上げてくれました。塾長以下講師陣の容赦ないダメ出しを受けては手直しをして、ファーストコースとセカンドコースの課題に磨き上げてくれました。両コースの盛り上がりは、柚木の豪腕なくしてはありえなかったでしょう。


tokoton-07b.gif『作文力をつける』低・中・高学年の3冊シリーズもヒットし、姉妹図書として『書く力をつける』『考える力をつける』も低・中・高学年の3冊シリーズで発売されました。一連の3冊シリーズには、親向けのサポートメッセージを加えています。思えば、”109の誓い”で構想した子ども向け参考書と親向け啓蒙書の合体本という企画を、かたちを変えて実現できたのがこのシリーズだったのかもしれません。


 


 

 

より学習効果を高めるために


 04年、大がかりにコース全体の見直しをはかりました。


保護者アンケートにおいて、ファーストコースの課題に手こずっているとの声を一年生の親御さんから多く受けるようになりました。考えてみれば、小学1、2年生というくくり方が大雑把すぎたのかもしれません。新入学の一年生と二年生の後半では身につけている学力には大きな差があるからです。そこで、初めて作文を学ぶ一年生のために、一ターム限定のベースコースを新たに作りました。


一年生の場合に、入学仕立ての頃はもちろん作文を書くレベルまで学力は到達していないことがほとんどですが、その分、一ヶ月ごとの伸びも大きいという特徴がありますので、それにあわせたカリキュラムづくりを行いました。小学一年生の場合にはかなり親御さんにサポートしていただかないと受講を続けるのは難しいとの判断がありましたので、毎回保護者サポートメッセージを別紙でつけました。こうすることで、初めて作文を学習する一年生も難なく取り組める講座にすることができました。


 サードコースでは、アンケートにはあまり表れていませんでしたが、サードコースの指導責任者である大原理志から「より学習効果を高めるためには、作文学習と小論文学習をタームごとに分けたほうがよい」との提案が出されました。当初サードコースは「作文3回、読書感想文1回、小論文1回」で1タームという盛りだくさんの内容でした。確かにたくさんの学習体験をできる点はよかったのですが、指導者としては、どれも力を伸ばす実感が持てずに欲求不満の残る面もあったようです。白藍塾の添削は、「力を知るためのテスト」ではなく「力を伸ばすための紙の上の授業」であることを塾内で再認識したうえで、講座をタームごとに作文講座と小論文講座に分けました。


読書感想文講座は一旦手を引き、将来新たなかたちで挑戦することに決めました。


 


講座づくりの際に忘れてはならない3つのこと


 その後も、会員や会員保護者の声、講師の手ごたえ、外部からのニーズ、時代の移り変わりにあわせて、講座内容の見直し、新コースの立ち上げを行っています。


07年、それまで会員限定のオプション講座であった入試対策講座を外部からも受講できる「中学入試作文コース」にリニューアルしました。公立中高一貫校の増加に伴い、入試作文指導をしてほしいとの声が多く集まるようになったためです。


08年、棚上げになっていた読書感想文で、ようやく学習効果を出せそうなプログラムを考案できたので、会員対象の、夏休み、春休み特別講座「読書感想文クラブ」として再スタートさせました。毎回、メインテーマの設定で講師間での白熱した議論はありますが、順調に今年2年目を迎えています。


 


以上が、白藍塾小学生作文教室の誕生から現在まで歴史です。


この12年の講座づくりの中で、当塾が守り続けてきた3つのポイントを最後に紹介しましょう。


・作文・小論文指導の”専門店”であることを自覚する


・添削は、「力をみるためのテスト」ではなく「力を伸ばすための紙の上の授業」である


・樋口式文章教育の理念が核になる


この三点が講座づくりの基盤です。小学生作文教室に限らず、他の白藍塾通信指導にも共通して言えることです。基盤が安定していれば、会員ほか多くの人たちの期待を裏切ることもなく、そして白藍塾の味わいも失うことなしに、講座づくりができると信じています。その思いがあるからこそ、積極的に、講座の見直し、新講座立ち上げにチャレンジができるのです。


(2009.8.2)


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