白藍塾樋口裕一の小論文・作文通信指導

第15話:受け入れ態勢を整える


指導の盲点


先日、日本ラグビー界の牽引者である平尾誠二氏とリーダーシップ論の第一人者である金井壽宏氏の共著(対談集)『型破りのコーチング』(PHP新書)を読んでいたところ、たいへん興味深い一節がありました。平尾氏の発言です。tokoton-15a_sakura2.jpg


「コーチングとは教える側の発信機ではなく、いかに教えられる側の受信機の精度を高めるかがポイントではないかと思うのです。」


 ラグビーの実践を通して「指導者は、伝え方を考える前に、受け取る側の受け入れ態勢を整えることに気を配るべき」と言っています。文章を教える場合もまさにそのとおりで、よい添削指導とは、受講者の受け入れ態勢を整えながら実践しなくてはなりません。今回はこの点について、お話しましょう。


 


その気にさせる


受け入れ態勢を整える第一歩目は、受講者のモチベーションをあげることでしょう。「作文をもっと上手になりたい」と受講者自身が思わないと、指導をしっかり受け止めることはできません。


 モチベーションをあげる最も一般的なやり方はほめることです。受講者の書いた作文・小論文から、どこか良いところを発見して、そこをほめるのです。具体的にどういうところがよいのかを言葉で表現されることで、受講者は「自分の文章もまんざらではない」と思えます。「才能がない」という絶望感から抜け出せて、「やればできそう」「もしかしたら才能があるかも」とだんだんに希望もふくらみます。そうすることで、添削コメントを貪欲に吸収して、希望を現実にしようとするのです。特に小学生を教える場合には、子どもを作文好きにすることが指導の第一目標になりますので、ほめる指導はことのほか重要です。


 ほめるのとは逆に、ガツンと厳しく指導して、モチベーションをあげる方法もあります。入試講座のように、合格という明確な目標があり、しかも限られた時間内で一定の力をつけなくてはならない場合には有効です。「このままでは合格できない」とはっきり伝えて、まさに「尻に火をつける」のです。 


 


許容量を大きくする


 指導のレベルと受講者の実力にあまりに開きがあると、どれほど真面目な受講者であっても指導を力にすることはできないでしょう。


 大学入試小論文指導の場合、たとえ受講者が慶応や東大などの難関大学志望者であっても、まだ基本も理解していないうちから入試解答レベルの高度な指導内容を届けようとしてもほとんど身につかないでしょう。そればかりか自信を失わせてしまう恐れもあります。まずは基本の「型」が定着するように指導するのが先決です。知識不足の受講者に対しては、入門レベルの知識集を紹介することや、新聞投書欄の活用の仕方などをアドバイスするところから始めるほうがよいでしょう。


 いきなりハイレベルに到達させようとしても、お手上げ状態になってしまうのは当たり前です。手の届く範囲で指導を行いながら、受講者の力量を徐々に上げていきます。そして段階的にレベルの高い指導を届けていけば、受講者は指導をしっかり吸収できて、最終的には大学合格レベルの実力に到達できるのです。


 


アイデアを活かす


小論文でも作文でも、最初からまともに書ける人はごく少数で、多くの人はたくさんの欠点を抱えた文章を書いてしまいます。


 欠点だらけの文章を単に否定するだけでは、受講者は戸惑うばかりです。そうかといって、まるで指導者が代筆をしているような、親切すぎる書き替え例を紹介されても、受講者は面白くないでしょう。受講者の力を伸ばすには、受講者が納得のいく指導を発信しなくてはなりません。そうでないと、受講者はそっぽを向いて指導に従おうとしないでしょう。


 どんなに不十分な内容でも受講者なりに考えて書いた文章ならば、できるかぎりその書いた文章から活かせるアイデアを拾い上げるほうがよいでしょう。受講者にとって、自分のアイデアを使った改善案は受け入れやすいものです。一度自分の頭の中を通過しているものだから、指導に従って書き直しても「自分が書いた」という実感を持てるからです。加えて、受講者は自分のアイデアを活かしてくれた指導者を信頼します。信頼感は、間違いなく指導を受け入れる潤滑油になります。


 


活かせるアイデアはきっとある


「そうはいっても、ひどい内容の文章だと、活かせるアイデアなどない」


 ある程度まとまった数の小論文や作文を指導した経験がある方は、過去の指導経験を振り返りながら、このような反論を思い浮かべるかもしれません。けれども、どんなに問題の多い文章であっても、真面目に取り組んだものならば全否定するのではなく、どこか一点に注目して、改善の糸口を見つけてほしいものです。


冒頭で紹介した『型破りのコーチング』で平尾氏は次のように語っています。


「興味をもてば、選手のほうからこちらの話に自然と耳を傾けるようになります。受信機の精度が上がるとはこういうことなのです。・・・いきなり、こんないい話をしてやろう。この知識を教えてやろうなんて肩に力を入れても、たいがいの場合、それは相手の心まで届きません。心が動かなければ行動も変わらないのです。・・・」


受講者にしてみれば、自分なりに書いた文章中のアイデアを一切認めてもらえずに、指導者の考え、教科書の考えを単に押し付けられても、中々受け入れられません。


 tokoton-15b_sakura2.jpg当塾講師陣は「受講者の言いたかったのは、きっとこういうことだろう」と、常に予測を立てながら赤ペンを入れることを心がけています。的を射た予測をするために、答案によっては、読み込みに相当の時間を要することもあります。


まるでダメと思っていた小論文や作文にも、活かせるアイデアが眠っていることがあります。時間が足らないのか、指導力不足なのか、「どうせコイツの作文はいいはずない」という先入観のせいなのか、学校をはじめとする多くの作文指導の場において、生徒が書いた文章に対する読み込みが足らずに、せっかくの活かせるアイデアを見逃がしてしまっていることが結構多い気がするのです。


(2010.4.4)


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