白藍塾樋口裕一の小論文・作文通信指導

第29話:小学生に作文を教える意義


10年の節目を迎えて


小学生作文教室が小1~小6までの全学年対象の講座になってから今年で10年目を迎えます。この10年、添削指導はもちろんのこと、課題づくり、講師育成など、まさに八面六臂の活躍ぶりで小学生作文教室を引っ張ってきたのが柚木利志です。年々、小学生作文講師陣の指導の質が向上していますが、これも柚木がリーダーシップを発揮して他の講師をもりたててくれたおかげでしょう。今回は柚木講師へのインタビューを紹介します。小学生作文指導に対する熱い思いを語ってもらいました。


 


―10年前の子たちと今の子たちの違いはありますか?―


「正直なところ、子どものレベルは変わらないですね。この10年の間にゆとり教育が導入されて、その影響が子どもの作文にどう出るのかと心配していましたが、少なくともうちの会員の作文には悪影響は見られないですね。トータルでみると最近の子たちのほうがレベルは高いかもしれません。


1、2タームやるだけで、どの子も文章をまとめあげる力はグンと伸びます。アイデアに関しては正直センスがものをいいますので、伸び方は子どもによってずいぶん差があります。しかし、まとめる力は多くのお子さんが一様に早く身につけられるようです。新規入会のお子さんの作文と比べるとまとめる力の差は明らかです。これは、白藍塾メソッドに従って、ホップ・ステップ・ジャンプ・着地の型を意識しながら作文を書いてきた成果と言えるでしょう」


 


―小学生の作文を添削するときに特に注意していることは何でしょうか―


「例を示すことですね。ある場面で登場人物の気持ちが描けていなかったとします。そのときには『この場面の○○さんの気持ちを書きましょう』と指示するだけに留めずに『たとえば、・・・・』と、例を示すようにします。その際に、できるかぎり他の子どもが書いたアイデアを参考に例を示すようにしています。同年代の子どもが書いた案を紹介することで、子どもは親しみを感じます。その思いをきっかけに『自分だったらこのときの気持ちをどう表現するだろう』と考えるようになります。


同じ状況で、最初から登場人物の気持ちを描けている子に対しては、まずその子の書いた内容に言及したうえで『その他に・・・と表現している友だちもいたよ』と、他の子どもが書いたアイデアを示すように心がけています。他の例を見て表現の仕方が一つではないことを学び、また物事の多面性を知るきっかけになります。そこで、作文の奥深さ、醍醐味を知ってもらえれば、その子はさらに高みを目指して学習することができます」


 


―まずい指導とはどんなものでしょう―


「言葉や文体を直すだけの校正になってしまっている指導、子どもの書いている内容を無視して自分の考えを一方的に押し付ける指導はまずいですね。


それと、小学生の書いた作文だからといって、子ども扱いした態度で接するのもまずい指導だと思います。子どもといっしょになってはしゃぐばかりで、肝心の書いた内容を無下にするような指導はダメですね。どれほど突拍子のないことが書かれていても、子どもの書いた内容を尊重することが大切です。そうでなければ子どもはついてこないでしょう」


……4年ほど前になりますが、講師を公募した際に、大手出版社系の作文通信塾で長いこと指導されていたベテラン先生が応募してきたことがあります。どれほどの実力の持ち主かと半ば期待していたのですが、模擬添削をみると、子ども扱いをする添削の典型例でした。「わあー、この言い方先生好きだなあ」「また〇〇ちゃんの作文読みたいなあ、先生が〇〇ちゃんのことをもっともっと好きになるようにまたがんばって書いてね」というようにはしゃぐばかりで、どう良いのか悪いのか、何をすることで力がつくのかが全く書かれていませんでした。


やはり子どもの書いた内容をしっかり受け止めて、具体的な指導をしなくては力を伸ばすことはできません。小学生の作文指導とは原稿用紙と鉛筆でお遊戯することではないのです。楽しく取り組みながらも、やはり紙の上の授業でなくてはいけません。


 


―お子さんの作文を見守る親御さんに何かメッセージはありますか―


「子どもが作文嫌いにならないように注意してほしいですね。そのためには、あまり無理にやらせないことです。もちろん受講スケジュールに従って取り組むほうがよいのですが、どうしてもお子さんのエンジンがかかるのが遅ければ、遅れて出すのもよいでしょう。


また、低学年のうちは親子二人三脚で取り組むのも決して悪いことではありません。たまに、親御さんがアイデア出しを手伝ってあげるのもよいでしょう。もちろん答案用紙に書く最終案は子ども自身の考えたものであるべきですが、その前段階として親子でアイデア出しのキャッチボールをやるのはよいことではないでしょうか」


 


―最後に、小学生に作文を教える意義について、お話し下さい―


「意欲さえあれば時間はかかっても作文の力を伸ばすことはできます。小学校低学年から作文を学ぶ意義は意欲の種を植え付けることだと思います。意欲の種を植えつけるために、添削指導、課題、物語、その他講座運営上の様々な仕掛けがあります。意欲さえあれば、まとめる力も発想力も伸ばすことができます。逆に意欲のないまま育ってしまうと、その先で高度なことを学んでも身につきませんし、面倒くさいことに直面したときも自分で工夫して乗り越えようとするパワーも出てきません。


以前、白藍塾会員指導とは別に高校生の小論文コンテストの審査という仕事を請け負って大量の小論文を見ましたが、良いものと悪いものの差があまりに大きいので驚きました。悪い答案とは、意欲の感じられないものばかりです。半分も書けていない答案や、インターネットの記事をまる写ししているような答案です。そういった答案を見るたびに、子ども時代に意欲を植え付ける教育を受けてこなかった不幸を想像してしまいます。


これからの時代、非常に厳しい世の中が待っているわけですから、その厳しい社会を乗り切っていくには意欲がどうしても必要です。作文に限らず全ての学習、さらには人生を成功に導くカギは意欲だと思います。作文教育の究極の目的は意欲を植え付けることだと強調したいですね」


 


(2011.7.9)


                                                            


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