第9話:大学入試指導の第一歩
最初が肝心
言うまでもなく大学入試講座の第一の目的は、志望校合格の力をつけることです。しかも受講開始から試験日までの限られた時間で一定の力をつけなくてはなりません。仮に合格できる力を5としたら、受講開始時点で3の人も1の人も、試験日までに5に引き上げなくてはなりません。残された日数が10ヶ月であろうと3ヶ月であろうと5まで持っていかなくてはなりません。そのためには荒療治も必要になってきます。
初めて提出される答案は基礎を全く理解していないものが大半です。そういう答案には、容赦なくガツンと厳しい添削コメントをぶつけます。
傷つけまいと理解不足の点をズバリ指摘せずにあいまいにしていると、いつまでたっても基礎が身につきません。小論文の場合は、基礎をしっかり固めないとその先の学習、志望校対策をやってもほとんど役に立ちません。時間がたっぷりあれば、なあなあの指導をしながら受講生の「気づき」を待つのんびり教育も許されるかもしれませんが、限られた時間で大学に合格できる力をつけさせるには、なるべく早い段階で基礎をマスターさせなくてはなりません。そのためには、初回にガツンと厳しい指導をぶつけて、「今のままではダメなんだ」とわからせる必要があります。
悪しき作文教育の垢落とし
多くの受講生が初回の添削で酷評を受けます。そうなってしまう理由はおそらく学校や塾の小論文教育に問題があったからでしょう。未だに小論文と作文の区別の付いていない先生も多いようです。また最近は小論文を調べた知識を並べるだけのものと考えている先生もいるようです。こういった誤った認識を持った指導者から小論文を学び、大いなる勘違いをしている受験生の目を開かせるには、荒療治がどうしても必要なのです。
「自信たっぷりで書いた答案がほぼ全否定で戻ってきたので、しばらく落ち込んで答案を見直すことができませんでした。・・・」
「最初の添削を見て、担任の○○先生は血も涙もないひどい人だと思いました。・・・」
10年ほど前までの大学入試講座の合否アンケートには、初回の厳しい添削にショックを受けた、このような落胆や怒りの声がたくさんありました。
最近の受験生は打たれ弱くなっているので、どの講師もショックを与えすぎないようにと慎重に言葉を選んで添削していますが、「厳しい添削で引っ張りながら合格に導く」という大学入試小論文講座の基本スタンスは昔も今も変わりません。
次につなげる
厳しい添削は、講師も細心の注意を払って行います。据えたお灸がきつすぎると、受講生は離れてしまいます。かといって、傷つかないようにと気を遣いすぎて遠まわしな言い方ばかりしていると、「この先生の書いてあることは結局何を言っているのかわからない」と匙を投げられてしまうでしょう。
どうガツンと指導するかは各講師の裁量に任せていますが、答案内容、試験日までの時間的余裕、今の実力と志望校合格までの距離、残された受講回数、答案から知り得る受講生のパーソナリティなどを総合的に判断し、赤ペンで効き目ある言葉を書き込みます。
また、これがもっとも重要なことですが、厳しい添削を書くときには、どうダメなのかを具体的に伝えなくてはなりません。
厳しい添削は、受講生をねじ伏せることが目的ではありません。あくまで合格につなげるためのステップです。次に小論文を書くときに活かせる添削内容ではなくてはならないのです。
あわせてもう一つ厳しい添削に欠かせない配慮があります。どんなにまずい答案に対しても、必ず「次回がんばれ!」とエールを送ることです。受験生は、たとえ厳しいコメントでへこんだとしても、担任講師からの応援を受けることでがんばることができるのです。
荒療治の成果
初回答案で厳しく接するのは、とにかく早い段階で基礎を理解してもらうためです。繰り返しになりますが、受講生をねじ伏せるためではありません。
白藍塾の大学入試講座では、荒療治に効き目があったかどうかを確かめる機会があります。第1回答案で一定ラインの評価を超えなかった受講生には、第2回答案提出時に第1回答案の書き直し答案も提出するように指導しています。添削済み答案の書き直しは小論文の最もよい復習方法です。基礎内容の理解不足を指摘された場合には、添削を見ながらもう一度テキストを読み直さなくてはならないでしょう。書き直し答案を仕上げながら理解不足だった点を克服できるのです。
書き直し答案で一定の評価を得られれば、基礎づくり完了です。荒療治でへこまされた気持ちも嘘のように晴れてきます。しかし、多くの受講生は一度痛い目にあっているので、ここで手を抜くこともないでしょう。本番で痛い目に遭わないように、邁進するのみです。
終わりよければすべてよし
基礎づくりが完了すると、そこからは受講生の実力も回を追うごとに上がってきます。時には知識不足やうっかりミスで全体評価を落とすこともありますが、そのような失敗を重ねながらさらにしっかりと根を張り、力をぐんぐん伸ばします。大手予備校の模試など他流試合でよい成績を上げて、実力向上の手応えを確かめる受講生も多いようです。
そして合格。合格後、多くの受講生は吉報とともに受講の感想を寄せてくれます。
その際に、次のような、初回添削のショックをなつかしく振り返る報告もたくさんいただきます。
「合格を手にした今となっては、最初の指導で落ち込んだことをなつかしく思います。・・・」
終わりよければすべてよし、ですね。
(2009.10.3)
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