第10話:なぜほめる?
自信を持たせる
小学生作文教室には、作文の上手な子、苦手な子の両方が入会します。上手な子の書いた作文はもちろんのこと、苦手な子の書いた作文についても、まずはほめることが大切です。ほめられることで「僕の作文もまんざら捨てたものでもない」と自信を持つことができます。自信を持てれば、作文に興味が湧いてきます。興味が湧いてくれば、うまく書こうとする気持ちも芽生えます。そして、力を伸ばします。それがまた評価されれば、また自信がつきます。そうすると、さらに腕をあげようとがんばり、そして、さらに力を伸ばします。そうやっているうちに、苦手と思っていた子もいつしか作文が得意になっています。「そんなにうまくいくの」と疑われる方もいるかもしれませんが、現に苦手意識を克服してグングン力を伸ばしている会員がたくさんいます。
作文指導の第一歩はほめて自信を持たせることです。苦手意識を持っている子の作文はむろん欠点がいっぱいあります。そうであっても、自信を持たせるために、どこか良い点を発見してあげてほめることが大切です。
ダンスでも歌でも自信を持つことでのびのびと表現できます。作文も同じです。「まずは萎縮せずに取り組める姿勢を作ってあげる」。そのためにほめることは欠かせないのです。
無責任にほめてはいけない
ただ、そうは言っても、無責任にほめてはいけません。
どこかの作文指導で「よくできました」「good」などとほめ言葉を記したスタンプをポンポン押すだけでほとんど添削らしき添削をしていないものを見たことがあります。もちろんスタンプだろうがシールだろうがほめられれば子どもは喜びます。楽しく学ばせるためには様々な演出も必要でしょう。しかし喜ばせるだけでは指導になりません。どこがよかったのか、なぜよかったのかを子どもに伝えなくてはなりません。それを伝えることで、子ども自身が自分の長所を自覚できます。そうすれば、長所をもっと伸ばそうとする意識が芽生えます。
ランナーをほめる場合、「腕の振りがいいね。肩に力が入っていないからだね」と、どこがよいのか、なぜよいのかを伝えることで、指導された選手はその長所を自覚できます。長所を自覚することで、良い点を崩さずにすみます。そのうえで、次なる改良に挑戦することができます。作文も同じです。長所を長所として自覚してこそ、力を積み上げていけるのです。
小学生作文指導で中心的役割を担っている専任講師柚木利志がこんな話をしていました。新人研修の席だったと思います。
「的外れなほめ方をしたり、あいまいなほめ方をしたりすると、その手抜きぶりを子どもに見透かされてしまうことがあります。子どもが表現しようとしたことを深く理解したうえでほめないと、いくら美辞麗句を並べようと信頼されません」
誰よりもたくさんの小学生作文を見ている柚木は、決して少なくない数の子どもたちが毎回練りに練った作文を提出してくるのを知っています。だから、書き手のねらいを読みとって添削をしないと失望させる危険が高いと言っているのです。ねらいを読みとったことを示す意味で、どこがよかったのか、なぜよかったのかを言葉で伝える必要があります。それが長所を自覚させることになり、同時に子どもの信頼を得ることにもつながるのです。
勝負どころを見極める
子どもの作文をじっくり読んでいると、子どもなりに勝負をかけているポイントが見えてきます。「話の展開は支離滅裂だけれど最後のオチはよく考えられている」。子どもの作文にはこういったものがよくあります。子どもにとってそのオチは自分の中で温めてきたとっておきのアイデアなのでしょう。この勝負どころはほめてあげたいところです。そこをほめたうえで、どこをどう直せば話の展開がよくなるか、前の段落のどこを改めればオチがもっと効果的になるのかなどを伝えたいものです。
もちろん子どもが勝負をかけてきたところが全てよいとはかぎりません。大きな欠陥が含まれる場合もあります。ただそうであっても、着想の良さ、表現のユニークさ、あるいはがんばりに対してでもよいので、ひと言ほめたうえで、どこをどう改善するとよいかを伝えるとよいでしょう。
こだわりの部分をほめられると子どもは喜びます。勝負をかけたアイデアや表現の工夫を認めてもらい、勝ったような気分を味わえるからです。野球でも水泳でもピアノでも、子どもは、勝利を味わわせてくれた指導者を信頼します。一度信頼した指導者の言葉は貪欲に吸収しようとします。そして教えを力にしてどんどん腕をあげていくのです。作文も同じです。勝負どころをほめて、子どもに「勝ち」を味わわせれば、その指導者の添削コメントには全幅の信頼を置き、貪欲に学ぼうとするでしょう。その結果、実力をつけて、優れた作文が書けるようになるのです。
ほめる前に問題点を見抜く
なぜほめる?の答えを3つ紹介しました。整理してみましょう。
1.自信を持たせるため
2.どこがよいのか、なぜよいのかを自覚してもらうため
3.こだわりを認めたことを伝えるため
あらためて確認しておきますと、ほめること自体は作文指導の目的ではありません。あくまで作文指導の目的は力を伸ばすことです。力を伸ばすための前提としてほめる添削があるのです。
ほめる添削をするうえでの注意点をひとつだけ挙げておきます。
小学生から社会人まで幅広く指導を受け持つ専任講師大場秀浩が、こんなことを言っていました。
「子どもの書いたものにすり寄って好意的に見ようとしすぎると、何がその作文の問題点なのか、教える側が見えなくなり、指導が混乱する場合が多いと、これまでの経験から感じています。まず、その作文にどんな問題点があり、どう改善するとよいのかを見極めてから、ほめる点を探します。そして実際にペン入れを開始します」
ほめる点を探す前に、問題点を見抜く。問題点を押さえたうえで、どうほめるかを考える。意識として、この順序を間違えないように注意しておく必要があります。ほめることばかりに気を取られていると、ただほめるだけの指導に陥りやすく、子どもの力を伸ばす指導にならないことが多いのです。
作文指導の目的は力を伸ばすことです。添削指導者はこのことを絶対に忘れてはいけません。
(2009.11.1)
- カテゴリー