第20話・「型」で勝つ!中学入試
なかなか伸びないお子さんに
2月入試を目指す受験生にとって、夏休み明けはマラソンの折り返し地点のようなものでしょうか。9月に入った途端に焦り出す受験生も多いようです。
作文や小論文は実力が見えにくい科目なので、力が伸びたかどうか判断しにくく、「このままで大丈夫かなあ」と他科目以上に心配になる面もあるようです。今回は、中学入試作文の力がなかなか伸びないと悩んでいるお子さんに、目に見える効果が表れるような、アドバイスを送りたいと思います。と言っても、奇をてらった話をするわけではありません。
カギは、当塾文章指導の柱である「型」の習得にあります。
伸び悩むお子さんの作文とは
力の伸びないお子さんの作文は主に2つのタイプがあります。
まず、内容の浅いものです。無味乾燥な事実やありきたりの感想をだらだら並べるだけで、一向に内容の深まらない作文です。
2つ目は全体のバランスを欠いているものです。前提の説明が延々と続き、本当に言いたいことがほんの少しになってしまう頭でっかちの作文、途中で書くことがなくなり、字数を埋めるために結末部分が無駄に長い作文などがその典型でしょうか。
どちらも、大多数の小学生の作文によく見られるタイプなので、ごく標準的な作文と言ってよいかもしれません。ただ人気校を受験するお子さんは、大勢のライバルから抜きんでるために、こういったレベルの作文から卒業しなくてはなりません。そこで有効な策は、文章の「型」を身に付けることです。
基本の型
白藍塾で指導している型は、大きくは二部構成と四部構成に分けられます。文章の長さによって、両者を使い分けるとよいでしょう。それぞれの書き方を例文とともに紹介しましょう。
・二部構成(基本形A)
200字程度またはそれ以下の短めの文章のときには、二部構成でまとめます。当塾ではこれを「基本形A」と呼んでいます。意見文の場合には次のように組み立てます。
第一部・・・意見を求められている事柄について、自分の意見をはっきり示す。
第二部・・・第一部で書いた自分の意見について、なぜそう思うのかという理由や、
具体例をくわしく説明する。
【例】
私は、日本ももっと国際化を進めるべきだと考える。
国際化が進むことで、外国人との交流が盛んになる。そうなると、日本人も外国の文化をもっと身近に感じるようになる。私も、街を歩いているとき、東南アジア系の人に道を聞かれたことがある。少し話しただけだが、それだけで人間性が伝わって、おたがい理解できる気になった。このように、国際化が進むことでおたがいの理解が進み、平和に近づくはずだ。 ※白藍塾・中学入試作文コース・テキスト所収
因みに基本形Aは、国語の長文記述(200字以内)問題の解答にも活用できます。例えば、主人公の心情をまとめなさい、という問題の場合には、第一部でテーマに対する答え(主人公の心情)をズバリ書きます。第二部では、第一部で書いた答えについて、そう思う理由、心情のさらなる具体的説明というようにまとめればよいでしょう。
・四部構成(ホップ・ステップ・ジャンプ・着地)
300字程度かそれ以上の場合には、四部構成でまとめます。当塾小学生講座では「ホップ・ステップ・ジャンプ・着地」の構成法と呼んでいます。小論文の場合には次のように組み立てます。
第一部(ホップ)
意見を求められている事柄について、自分の意見をまとめる。または問題となっている事柄についてイエスかノーかの疑問文を示す。書く分量…全体の10~20%
第二部(ステップ)
反対の意見を示しつつ、自分の立場をはっきりさせる。書く分量…全体の30~40%
第三部(ジャンプ)
自分の意見について、くわしく掘り下げて説明する。なぜそう思うのか、どうしてそのように言えるのか、という理由をしっかりと説明する。書く分量…全体の40~50%
第四部(着地)
もう一度全体を整理して、自分の意見をまとめる。書く分量…全体の10%以下
【例】
ごみや空気の汚れのために、地球が人間の住めないところになると言われている。私の住む町でもごみが問題になっている。では、これから地球を守ることができるのだろうか。
確かに、人間が生きていくためには、木を切ったり資源をほり出したりしなくてはいけない。そうして、地球の一部をこわしながら人間は生きている。だから、地球を守るのはそれほど簡単なことではない。しかし、だからといって、このままにしておいたら、地球はほろびるだろう。地球を守るために、私たちの手でできることがあるはずだ。
今、私たちは必要のないものをたくさん買って、むだにしている。たとえば、服もバッグもテレビなども、ほとんどの人はもう必要なだけ持っている。それなのに、新製品が出ると、ほしくなって買ってしまう。そういう新しいものを作るために、私たちはたくさんの地球の資源をむだに使っている。それだけでなく、使われなくなったものがたくさんのごみになって、環境を汚している。つまり、地球の環境が破壊されているのも、私たちがむだなものを作ったり買ったりしているからだ。だから、私たちがむだをしなくなるだけで、地球の命をずっと長くのばせるはずだ。そのためには、もっとリサイクルをして、ものを大事にすることが必要だと思う。
このように、私たちがものを大事にすれば、地球を守ることができると私は考える。
※白藍塾・中学入試作文コース・テキスト所収
型は設計図の役割を果たす
型に従って書くことで、内容の浅さを克服できます。二部構成ならば、第一部から第二部に移る際、四部構成ならば、第二部から第三部に移る際、「次の段落から根拠を書こう」「次の節目からもっと具体的な説明に入ろう」と、意識的にギアチェンジが出来ます。そうすることで、勢いに流されず、意識的に深い内容の作文を書けるようになるでしょう。
型に従って書くことで、バランスの悪さも克服できます。ホップ、ステップ・・・、それぞれどのくらいの分量で書くとよいのか、その目安があれば、意識的に書く分量をセーブできるので、バランス良くまとめることもたやすくなるでしょう。
型は文章の設計図とも言えます。設計図があれば、内容、バランスを、意識的に改善、調整できるというわけです。
型に従った作文だと、中学の先生に悪い印象を与えるか
昔は「型に従って書こう」とどこかで言うと、必ず何人かの学校の先生から批判を浴びました。「型なんて教えずに子どもの自由に書かせたほうがいい」「型を守って書け、などという指導は子どもを鋳型にはめる教育でけしからん」というようにです。
こういう批判をする人に限って、「型」の意義をわからずにいます。型に従って文章を書くことは、考えを鋳型にはめる行為ではありません。無論、個性を奪うことでもありません。文章の型とは、考えをわかりやすく伝えるための技術です。型を使うことで、わかりやすく伝わるだけでなく、効果的に伝わります。小論文(意見文)は説得力のある文章になり、作文はアピール性の高い文章になります。もちろん型を使っても、斬新な意見を主張することも可能ですし、強い個性をアピールすることもできます。いや、むしろ型を使ったほうが、斬新な意見も強い個性も、より有効に伝えることができるでしょう。
「技術をおぼえて、より質の高い表現活動をしてほしい」。文章の型を指導する意義とはまさにこういうことなのです。
ただ、今や樋口式文章指導は多くの学校教育に取り入れられていますので、「型」の批判はかなり時代遅れの考え方と言えます。ある公立の中等教育学校では、作文を書くときの条件として、四部構成という言葉を使ってはいないものの、当塾で指導する四部構成とほぼ同一のかたちでまとめるように、試験問題に明記しているほどです。
おそらく、古い考えに凝り固まった先生方は、今は公立でも私立でも、ほとんど入試作文の出題には関わっていないのではないでしょうか。「伝える力」「論理的思考力」という、これからの時代に求められる資質を見出すのが昨今の作文試験のねらいですから、「考えをわかりやすく伝えるための技術」である型を否定しては成り立たないように思います。
ですから安心して型を学び、入試作文対策に役立ててください。
短い試験時間の対応策として
入試作文に型が有効な理由をもう1つ紹介しましょう。
型を身につけていれば、試験中に考える時間を節約できます。適性検査で作文を課す公立中高一貫校の場合、試験時間はわずか45分です。学校によっては、45分間で、課題文章を読ませて小問を解答させたうえで、400字以上、中には800字程度の作文を書かせるところもあります。そうなると構成を考えながら書いている余裕などありません。かといって、行き当たりばったりで書いては、内容の浅い、バランスの悪い、標準的ではあるが合格には手の届かない作文になってしまうでしょう。
型が身についていれば、構成に頭を使わずに済みます。その分、内容を深めることに時間を費やせますので、合格作文になる可能性はグンと高まります。
(2010.9.6)
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