第21話・秋は壁にぶち当たる?大学入試
今が堪えどころ
秋は大学受験生がグラつきやすい季節と言えます。様々な状況から、なかなか成績が伸びにくい時期だからです。目に見える伸びを確認できないために焦りが増して、今までやってきた学習を全否定し、全く違うやり方の学習を始めたり、ずっと目標にしてきた志望校をあきらめて、小論文が試験科目に入っていない大学に志望を変更しようとしたりと、とにかく気持ちがキョロキョロし出します。
今が堪えどころです。まずは、何が足かせとなって伸び悩んでいるのか、その原因を突き止めてください。原因がわかれば、弱点克服のための学習をすればよいのです。酷暑を乗り越えてがんばってきた学習を、ここで放り出すのはあまりにもったいない話です。
今回は、毎年秋頃に受験生が出くわすいくつかの「壁」を見ていきながら、その解決方法を紹介しましょう。
知識不足
4月、5月あたりから小論文の学習を始めている人は、志望校に向けた対策課題に秋頃から取り組み出します。
書き方さえ学べば、基礎課題はなんとか太刀打ちできたものの、志望校対策課題では問題の難易度も上がるため、そうはいかないケースもたくさん出てきます。
うまく書けない最大の原因は知識不足によるものです。知識が不足しているため、「課題文の主張がよく読みとれない」「意見すべきネタが思い浮かばず、何を書いたらよいのかわからない」といった現象に陥り、トンチンカンな小論文を書いてしまいます。現役生によくあるパターンですが、浪人生や社会人でも小論文の勉強を今年から始めた人は、この時期、知識不足の壁にぶち当たります。
この壁を突破するには、とにかく知識の補充に努めることです。『読むだけ小論文』(学研)や『小論文これだけ!』(東洋経済新報社)で知識を補うことから始めましょう。また、取り組んだ通信講座の課題や模擬試験で、歯が立たなかった問題があった場合には、その問題に関わる知識が不足しているわけですから、すぐに該当するテーマの知識を補いましょう。「介護労働力不足の問題」について書くネタが浮かばない人は、労働人口の減少、介護労働現場の抱える問題、日本の若者の離職率、外国人労働者の問題など、そのテーマに関わる知識をあらゆる角度から仕入れておくようにしましょう。
得意ネタにしばられる
白藍塾の受講生アンケートによれば、受験生にとって、小論文の勉強で知識を蓄えることは結構楽しいようです。
「このネタをいつか使ってやろう」と発信意欲を持つことで、ワクワクした気分になるからだそうです。
気をつけたいのは、お気に入りのネタで、なんでもかんでもまとめようとしないことです。たとえば「民主主義とは、民衆の一人ひとりが自由を保障され、人権を認められて自由に生きること」というフレーズを気に入り、どんな課題にも、これを持ち出し、説得を図ろうとすることです。
無理にこじつけようとすると、やはり論理矛盾を起こします。問われている内容とずれた解答を書くことにもなりかねません。
このように、得意ネタにしばられるのは浪人生に多いようです。それなりに勉強して多少なりとも自信を持っているためでしょうか。一度得意ネタを使ってうまく書けた成功体験があるためでしょうか。得意ネタへのこだわりを捨て切れずに、いつも同じ箇所で同じような論理矛盾を起こしてしまいます。
小論文の基本は、ある問題に対し、イエスかノーかを答えることです。課題文がある場合には、筆者の主張に対し、イエス・ノーを答えることです。得意ネタを使う以前に、この大前提を忘れてはいけません。小論文に使うネタは、問われている問題を解答するのにふさわしいネタを使わなくてはなりません。
得意ネタを使って「ずれている」との指摘を2回以上受けたことのある人は、得意ネタをいったん頭の中から切り離しましょう。そして問われている問題点に対し、イエス・ノーそれぞれの意見の根拠としてどんなことが挙げられるかを考えてみましょう。そうしたうえで、得意ネタを使うことは果たして有効かどうかを考えるようにしましょう。
なお、得意ネタを持つのは悪いことではありません。ただ、1つの得意ネタであらゆるテーマをカバーするのは無理があります。当たる確率の低い博打をしているようなものです。1つや2つでなく、10~20ぐらいを目標に、得意ネタを仕込んでください。そうすれば、あらゆるテーマに対し、かなりの確率で対応できるようになるでしょう。
ただ、くり返し言いますが、筆者の主張に対し、イエス・ノーを答えるという、大原則はゆめゆめ忘れないでください。
欲張ってあれこれ書く
真面目に勉強して、知識の獲得に非常に熱心な人がいます。社会人に最も多い傾向です。とにかく一つの小論文を書くのに、数冊の本を購入し、図書館からも何冊もの本を借りてきて、インターネットでもあちこちを調べまくります。そうやって、山ほどネタを集めてから書き出します。
ところが集めたネタを捨て切れず、あれもこれもとたくさん盛り込もうとします。挙句の果て、何を主張しようとしているのかわからない文章を書いてしまいます。しかも、あれこれ書いている割には、肝心の自分の考えが書かれていない場合が多いのです。これでは、いくら書いても上達しません。
小論文は知識量を競う試験ではありません。設問によっては、知識を問う問題もありますが、それは小論文ではなく、基礎知識を確かめる説明問題と思ってください。小論文問題では、ある問題に対し、自分の意見をどれだけ説得力を持って示せるかが勝負です。
原則として、ネタは一つにしぼりましょう。苦労してあれこれ調べたネタを捨てるのはもったいないと思うかもしれませんが、思い切って一つにしぼりましょう。しぼったネタについて、じっくり考えて、自分の考えを反映させるようにしてください。
知識の運用の仕方が「壁」を突破するカギ
秋口に伸び悩む人は、知識の不足、偏り、未消化など、知識の運用の仕方に問題があるようです。新しい知識を補充しつつ、知識の使い方を、実践を通して学ぶのがこの時期に取り組むべき学習です。基礎段階とは異なり、知識をため込み、知識の運用の仕方を試行錯誤する段階なので、目に見える成長は感じられない時期かもしれません。
冒頭に書いたように、伸び悩むとキョロキョロしたくなるもので、これまでやってきた基本を無視して、変てこな書き方に挑戦してみたりします。結果、さらに成績が下がり、真っ青になったりします。こんな悪循環に陥らないようにしましょう。
教務主任大原理志に、このような受講生に対し、どうアドバイスするかを尋ねてみました。
「これまで取り組んできた添削済み答案を見直すように促します。基礎を踏まえて書いた小論文がいかに説得力あるかを自覚させたうえで、基礎力に問題があるのではなく、知識の運用の仕方に問題があることを本人自身に確認してもらうためです」
現在の答案だけでなく過去の答案にも言及しながら軌道修正を図る指導法は、担任制だからこそできるワザです。
これから小論文を勉強する人は?
ここまで読んでとても不安に思っている受験生も多いのではないでしょうか。
「私はこれから小論文の勉強しようと思っているのに、大丈夫かな?」と。
これから学習を始める人は、基礎を学びながら知識の補充も同時に行ってください。間違えても、基礎を飛ばして、いきなり過去問題に取り組み、一夜漬けで知識を仕込もうなどと考えてはいけません。ピッチを上げて学習しなくてはならないのは確かですが、基礎学習は絶対に必要です。基礎力があれば実践対策もしっかり身に付けられます。基礎の大切さをしっかり把握できていれば、11月の推薦入試、社会人入試、2月の一般入試までに、志望校合格の力をつけることも決して不可能ではないでしょう。
(2010.9.26)
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