第12話 メモでピンチを切り抜ける
ピンチを切り抜けるには
入試が近づいてまいりました。中学、高校、大学受験の一般入試は、年明けから徐々に実施されていきます。入試では何が起こるかわかりません。予期せぬ出題、思わぬ時間の浪費など、自宅で小論文を書いているときには味わうことのなかったピンチに陥ることもあります。今回は、入試本番で起こりうるピンチの状況を想定して、その対応策を紹介します。
「書いている途中でいいアイデアが浮かび、書き直そうかどうかと迷い…」
結論からいうと、一度書き始めたら、書き直しはせず、最初の構想に従って書き上げるのが原則です。もし例外があるとしたら、それはよほどいい考えが浮かんだときで、しかも、時間がたっぷり残っていて、アイデア、構成を練り直す時間もたっぷり残っている場合に限ります。
ただ、そのときにどんなによいと思っても、途中で書き直すよりも最初の構想に従って書くほうが、結果的にはよい場合がほとんどです。だから、途中で「しまった!」と思っても、あわてて消しゴムを使うのではなく、まずは書いた部分を読み直してみましょう。
もちろん、書き出す前に3WHAT3W1Hによるアイデアメモをしっかりつけていれば、こうしたピンチを招かずに済むでしょう。
「文章も終わりに近づいた頃、このままでは指定字数に満たないことに気がついた……」
字数不足になるのは、ほとんどの場合、課題の問題点を理解できていないことが原因です。問題点が見つからないので書くことが見つからない。反論を思いつかないので何を論じていいのかわからない。だから字数が不足するのです。まずは字数不足にならないように、書き出す前に課題文についてじっくり考えることが前提であることを覚えておいてください。
課題文をしっかり読んだにもかかわらず、やはり字数が不足しそうな場合には、なんらかの手を打たなくてはなりません。できるかぎり書いた文章を消さずに直すほうがよいので、そうなると、第三部「展開」、第四部「結論」を見直すことになります。
「展開」は一つのネタにしぼって書くのが原則ですが、字数不足の場合には、ここで二つのネタを使います。それぞれを別の段落に分けて書くと字数が稼げるだけでなく文章にメリハリを出すこともできるでしょう。たとえば、最初の段落で「WHY(根拠)」を書き、次の段落で「HOW(対策)」を書くとよいでしょう。
それでも、まだ字数が不足する場合は、「結論」でもう一度文章全体を、特に「展開」に書いたことをまとめると字数を稼げるでしょう。
小論文を書くことに馴れてくると、アイデアメモの段階を飛ばして、いきなり構成メモをつける人がいます。アイデアメモでは、使うアイデアだけでなく、使わないアイデアも書き出すのでその作業を時間のロスと考えることが原因のようです。しかし、ぱっと思いついたアイデアは誰もが思いつくありきたりのアイデアである場合がほとんどです。たくさんのアイデアを出すことで、鋭いアイデアにたどり着くのです。また、たくさんアイデアを出しておけば、このピンチの場合のように、採用しなかったアイデアが思わぬかたちで役立つこともあるのです。
入試直前期の今、基礎をもう一度確認しよう
紹介した2つのピンチは、小論文を書くための基礎の基礎、「3WHAT3W1H」によるアイデアメモを普段から習慣づけていれば回避できたものです。
入試を目前に控え、落ち着かない気分で過ごしている受験生も多いと思います。直前期の今、志望校攻略に向けて実践トレーニングに取り組むことはもちろん重要です。しかし、それとあわせて、問題提起の作り方、四部構成の型の確認、アイデアメモのつけ方など、基本の再確認にも取り組んでほしいと思います。ここに取り上げた2つのケース以外でも、「基本を思い出すことで、ピンチを切り抜けた」という報告を多くの受講生からいただいています。
入試直前の今、ピンチ対応策をおさえるとともに、基本をおさえることの重要性をあらためて認識してほしいと思います。
3WHAT3W1Hの確認
樋口式小論文の参考書をまだ読んでいない人のために、アイデアを引き出すために有効な3WHAT3W1Hのメモの取り方を紹介します。左に紹介した表を合わせてご覧ください。当塾の会員や樋口参考書で学習をしている人は、ここで再確認してください。
まずは、3つのWHATをメモします。これは問題点を整理するためのメモです。ここでメモしたことは、主として第一部「問題提起」の部分で用いますが、第三部「展開」で使えることもあります。
次に考えを深めるために、3W1Hを考えます。これらは主に、第三部「展開」に使う材料を探すためのメモです。ここで見つけたことで、「これは説得力がある」と考えられるネタを中心に「展開」を書きます。
3W1Hの中でもっとも大事なのは「WHY(理由・根拠)」を考えることです。これについては、イエス・ノーを分けて考えるとよいでしょう。上下または左右に分けて、イエス・ノーの立場からそれぞれのアイデアを書いていきます。イエス・ノーのうちの初めに思いつくほうを上または左に書いて、それに反論するかたちでもう一方の欄を埋めていく方法を取ると考えやすいでしょう。
下書きよりもメモに時間を費やそう
最後にもうひとつ、ピンチ脱出法、というよりも、自らピンチを招かないための心がけを紹介しましょう。
「試験開始早々、まわりの受験生がせっせと文章を書き出した。まだ自分は課題文を読んでもいないのに…」
自宅で小論文を書くときにはきちんとメモをつけていたのに、入試本番では周囲の様子を見て焦ってしまい、メモを取らずに書いてしまう人がいます。結果、納得のいく小論文を書けず、悔しい思いを味わうことになります。
周囲の受験生に惑わされてはいけません。課題文もろくすっぽ読まずにいきなり原稿用紙に向かっている人を見たら、「これでライバルが一人減った」と安心していいでしょう。
どんな課題にせよ、いきなり書き出しては行き当たりばったりの説得力のない文章、誰でも思いつく浅い文章にしかなりません。問題を配られたら、まずは課題文をしっかり読みましょう。そして、読み終わったらメモをとりましょう。
できるだけ多くの時間をメモに費やしてこそよい小論文が書けます。白藍塾では、「下書きは余裕のあるとき以外は必要ない」と教えています。下書きに時間を使うよりも、メモを付けながら、視野を広げ、考えを深めることに時間を費やしたほうが結果的にはよい小論文になるからです。
メモから直接清書をする練習をぜひ今からやってください。それは志望校攻略のために有効な、実践トレーニングとも言えるのです。
(2009.12.26)
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