第32話 教材をフル活用する
大学合格のためには
言わずもがな、大学入試小論文講座の学習目標は、志望大学合格の実力をつけることです。慶応大学をはじめとする難関大学に合格するには、論理的にまとまった文章であるだけでなく、広い視野と深い思索力を文章の中で示さなくてはなりません。しかもその実力を、入試日までに付ける必要があります。
限られた時間で大学合格の実力をつけるには添削指導とあわせて教材をフル活用しなくてはなりません。
構成例で多様なものの見方を
大学入試講座の教材は、初回にお届けするテキストの他に毎回送る課題冊子があります。課題冊子は、前回の添削済み答案(小論文)とともに送ります。たとえば、第2回課題冊子は第1回課題の添削済み答案とともに受講生に送ります。
課題冊子には、毎回取り組む課題の他に、前回課題の解説・解答と紙上講義を掲載しています。
課題の解説には必ず構成例を入れています。構成例とは「問題提起」「意見提示」「展開」「結論」の四部構成でまとめる際に各部でどんな内容を書くかを示すメモに相当するものです。小論文の設計図とも言えます。構成例を読めば、全体の論理の流れがつかめるでしょう。しかし、構成例を読む効用はこれだけにとどまりません。
構成例はイエスの場合、ノーの場合の二例を示します。「中学校での武道の必修化」を考える課題の場合、「必修化に賛成」「必修化に反対」の両方の立場の構成例を示します。
自分が書いた小論文(答案)と同じ立場の構成例からは、同じ立場でもいろいろな根拠が考えられることを学びます。もう一方の自分とは異なる立場の構成例からは、新たなものの見方を学びます。「なるほど、それは説得力があるな」と反対意見に感心することもあるかもしれません。一つの課題から多様なものの見方を学ぶことで、高度な小論文を書く素養が身に付きます。
一つの課題の取り組みを、単なる正誤確認に終わらせないことが限られた時間で実力アップを図るコツと言えるでしょう。
解答例で完成形のイメージを
赤本や大手予備校の教材などには、明らかに大学院生などが書いたと思われる解答例が掲載されていることがあります。難解な学術用語を並べ立て、受験生が理解できるか否かはお構いなしに、ひたすら難しいことを書き連ねています。どんなに立派なことが書かれていても読み手である受験生の手に負えない内容では無用の長物と言えましょう。
白藍塾では受験生が理解できるレベルの解答例を作ることを心がけています。
「第二部と第三部はこのくらいのバランスにすればいいんだ」「展開部分ではこの接続詞を使えばうまく論を運ぶことができそうだな」というように、構成例の段階では理解があいまいだった点を、解答例を読むことでクリアにできます。また、そうやって頭の中での点検作業を行なっているうちに、小論文の完成形をイメージできるようになります。
「小論文はこう書くもの」というイメージがしっかり頭に植え付けられれば、構成が安定してくるでしょう。早い段階で構成力をつけておくことも入試対策では重要です。文章構成が不安定なままでは学習の積み上げがうまくいかないからです。
「知識を増やそう」で知識を増やす
白藍塾では、小論文の力をつけるうえで必要な知識、テクニック、メンタルケアなどをまとめた特集記事を総称して、紙上講義と呼んでいます。
広い視野を持ち、思索力に富んだ小論文を書くには、知識が必要です。毎回の課題に取り組み、解説・解答をじっくり読むことである程度の知識はつきます。しかしそれだけでは十分と言えません。そこで書くネタとして知識をつける必要があります。最もよいのは本を読むことです。紙上講義では、数回にわたり推薦図書の紹介を行なっています。
ただ、入試までの期間は限られているので、たくさんの本を読むにも限界があります。そこで「知識を増やそう」「合格フレーズ集」という知識ネタのダイジェスト版を紹介しています。
「知識を増やそう」は、日本文化、教育、民主主義、情報社会など、20近いカテゴリーに分けて、それぞれのカテゴリーの中で知っておきたい知識ネタを並べます。
たとえば「日本文化」というカテゴリーで「集団主義」の意味を説明する場合には、次のような短い文章を紹介します。
●日本文化を考えるとき、集団主義を忘れてはいけない。集団的な稲作を中心していた上、島国であるために、相手のことを思いやって、自己主張せず、集団の和を考えて行動する集団主義が日本で発達したと言われている。
●欧米は個人主義的だと言われる。個人主義というのは、基本的に、個人を社会に従属したものとみなすのではなく、むしろ、社会は個人が生きやすくするために存在するとみなす考え方のことだ。そのような社会では、人々は自分の意思で行動し、自分の行動の責任は自分で取ることが原則になっている。そして、他人と議論して自分の価値観の正しさを主張し、他者と競争して生きていく。だから、自分たちが社会を作っていくという意識が強い。ところが、日本人はそういう意識が弱い。日本人は、個人よりも社会や集団を優位に考える。個人は集団に所属してこそ自分でいられるとみなす。だから、自己決定、自己責任の意識が弱い。集団の和を大事にして、自分を押し殺す。自己主張をしない。
「知識を増やそう」の第一のねらいは、とにかくたくさんの知識ネタに触れて、アイデアの引き出しを多くすることです。第二のねらいは、前述の構成例と同様に、多様なものの見方や考え方を知ることにあります。そのため、カテゴリーごとに紹介する文章はできるかぎり複数になるように努めています。「集団主義」を理解するにも一面的な理解でなく、多面的に見られるようにするためです。
「合格フレーズ集」で万全を期す
「合格フレーズ集」は、様々な考え方を短いフレーズにまとめたものです。これは覚えてしまい、チャンスがあれば小論文の中で転用することを勧めています。「日本文化」に関する合格フレーズを2つ紹介しましょう。
●日本はかつての集団主義と、近年の個人主義が入り交じっている。そのために様々な問題が起こっている。
●日本社会に、ますます平等化が広まっている。そのため、ちょっとした差にも嫉妬し、「ずるい」という感覚を持つ。
紙上講義では、フレーズを裏付ける背景知識も紹介しますが、その部分は理解するだけで覚える必要はありません。覚えるのはフレーズのみです。
転用できなくても、アイデアを思いつくヒントになることもあります。合格フレーズをたくさん持てば、様々なテーマの課題にも対応できる力を備えられるでしょう。
合格者は教材をフル活用している
毎年受講生から寄せられるアンケートを読んでみると、志望校合格を果たした会員は、添削だけでなく教材を存分に活用している姿勢がうかがえます。
「自分が取り組まなかった選択課題の解説・解答を読むことで視野を広げられた」「『知識を増やそう』は直前期の総復習で読んだら、試験で大きな力になった」「たまたま試験前日に目にした合格フレーズが使えた」といった声を毎年多数いただきます。
添削とともに、教材もフル活用すれば、残された時間が少なくとも、志望大学合格を手にすることができるのです。
(2011.10.10)
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